前章までで音楽の持つゆらぎの本質とサンプリングの方法について解説しましたので、これからはゆらぎアナライザーを使って実際の楽曲を解析していきます。その前に、解析結果を評価する基準を定めておかなければならないので、試行錯誤により得られた結果をここで紹介します。
周波数ゆらぎと振幅ゆらぎはなかなか両立しない
音楽のゆらぎには周波数のゆらぎと振幅のゆらぎの二つがあると以前説明しましたが、実際に解析してみると、その両方が1/fゆらぎになるケースはかなり稀です。振幅ゆらぎの方はλ=1.2~1.4くらいの値を示すことが比較的多いようです。周波数が1/fゆらぎになっていても振幅はそうでなかったり、逆に振幅が1/fゆらぎになっていて周波数がそうでない場合もあります。両方とも1/fゆらぎになっていれば理想的と言えるのでしょうが、残念ながらそこまで満たす曲は非常に少ないです。しかし音量が変化しない音楽というのは存在しても、音程が変化しない音楽は普通あり得ませんから、周波数ゆらぎの方がより本質的と考えることもできます。したがって、今後の議論では振幅のゆらぎは少し置いておいて、周波数ゆらぎについてのみ考えていくことにします。
サンプリング周期の設定
元のウェーブデータをどのくらい細かく区切ってサンプリングするかは時間的な分解能と周波数精度の両方に影響することは前章で解説した通りですが、それを両立させることは不可能なため、ここではサンプリング周期を25ミリ秒とします(サンプリング周波数は40Hzです)。これは人間の可聴周波数の低い方が約20Hzであることに由来します。
低周波側に曲の特徴が表れる
サンプリング周波数が40Hzの場合、フーリエ変換して得られるパワースペクトルの有効な周波数範囲は20Hz以下となりますが、それをフルに利用するのが必ずしも適切とは限りません。実際にいろんなジャンルの曲を解析してみると、一つの法則が見えてきました。もちろん例外もありますが、以下にクラシック系とロック系の代表例を図示します。
この結果を比較して気づくのは、クラシック系は低周波から高周波までほぼ直線的なスペクトルを示すのに対し、ロック系はおよそ2Hzあたりを境に折れ曲がるケースが非常に多いということです。一方、およそ2Hzより高周波側ではどんなジャンルの音楽でも関係なく、ほぼ1/fの割合で減衰することもわかっています。
ゆらぎアナライザーは最小二乗法により回帰直線を求めていますが、対数表示では高周波側の密度が高くなるため、この部分の影響を非常に強く受けます。したがって高周波側まで含めると、それに引っ張られてほとんどの曲がλ=1に近い値を示してしまうわけです。
これでは適正な評価が不可能なため、低周波側の傾きだけで評価した方がより曲ごとの違いが明確になると考えられます。そこでゆらぎアナライザーの周波数制限機能を利用し、2Hzより低周波側に制限して傾きを求めることにしました。これは時間的に言うと0.5秒より長い周期のゆらぎを評価していることに相当します。