ピアノとエレクトーンの違い

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私は子供の頃エレクトーンを習っていたことがあるのですが、それが唯一の音楽経験です。ちなみにエレクトーンというのはヤマハの登録商標なので本来は電子オルガンと呼ばなければなりません。しかしここでは一般名詞として定着しているエレクトーンと呼ぶことにします。エレクトーンの歴史は意外と古く、1959年には最初のエレクトーンがヤマハから発売されています。

最近の人はエレクトーンという楽器にあまり馴染みがないかもしれませんね。少なくともメジャーな楽器とは言えないでしょう。最近の事情はよくわからないので何とも言えませんが、エレクトーン教室というのもあまり見かけない気がします。かつてはいろんなメーカーがエレクトーン製造に参入していましたが、今では実質的にヤマハの独占状態になってしまってます。さらには電子キーボードのようにエレクトーンと機能がよく似た楽器も普及し、境界があいまいになっている面もあります。そんなわけでますます影が薄くなっているのがエレクトーンだと言えるでしょう。

なぜこんな話を持ち出したのかと言うと、その対極にあるピアノと比較してみたかったからです。ピアノとエレクトーンは同じ鍵盤楽器でありながら、その構造はもちろん、奏法や思想までまるで違っています。これらは似て非なるものなのです。したがってエレクトーンを習ったからといってピアノが弾けるようになるわけではありません。もちろんその逆も同じでしょう。私はピアノを一度も習ったことがないので、普通はどんなレッスンをしているのか全く知りません。ピアノの基礎も全くありません。それでもピアノが弾きたい一心で独学で練習したら弾けるようになりました。

ここではピアノとエレクトーン、その違いを明確にしながら、それぞれの魅力とピアノが弾けるようになった経緯について語ってみたいと思います。もちろんどちらが優れているとか優劣を付けるものではありません。全く別物ですからそんなことをしても意味のないことです。しかしエレクトーンについて考えるほど日本のピアノ教育が抱える問題点も浮かび上がってきました。その辺まで含めて掘り下げてみたいと思います。

今のエレクトーンと昔のエレクトーンは全く違う

私がエレクトーンを習っていたのは今から40年以上前、1970年代のことです。その頃のエレクトーンというのはもちろんアナログであり、機能もシンプルなものでした。2段の鍵盤とペダル鍵盤を備えるという基本構造は今も同じですが、音源は電子的に合成されたものであり、とてもリアルとは呼べないものでした。いわゆる電子音そのものです。上段・下段・ペダル鍵盤にそれぞれ音色を割り振ることができ、レバーによってリアルタイムに音色を切り替えることができました。またリバーブなどのエフェクターやリズムマシンも内蔵していました。高級なものになると自動伴奏機能を備えたものもあったようです。

しかし奏法としては非常にシンプルで、右手でメロディー、左手でコード、左足でベースを弾き、右足でエクスプレッション(音量調節)を操作するのが基本です。上級者になると演奏の合間に音色をサクッと切り替えたりすることもあり、それがカッコいいと思えました。つまり両手両足をフルに使って一人で何役もこなすのが基本的な演奏スタイルだったのです。

ところが今のエレクトーンというのは音源からして全く違います。音源はデジタル的にサンプリングされたもので、非常にリアルな楽器音を出すことができます。音色のリアルさという点では昔のエレクトーンはとても敵いません。決定的に違うのは、シーケンサーを備えることにより、データを使って演奏することが可能になったということです。どういうことかというと、楽器メーカーなどが発売している演奏データを購入してきて、それに合わせて弾くことが王道になったのです。一人では演奏不可能な伴奏パートも全部含まれますし、音色の切り替えもタイミングに合わせて自動でやってくれます。演奏者はそれに合わせてメロディー、コード、ベースを弾くだけです。それでフルオーケストラ並みの超豪華なアレンジが一人で弾けてしまいます。極端に言えば、カラオケに合わせて弾いているのと何ら変わりません。

最近のエレクトーン事情は全く知らないので、今はどこまで進化しているのか知りませんが、演奏スタイルそのものが昔とは全く違うものになってしまったことは間違いありません。古い人間に言わせれば、他人の作ったデータに合わせて弾いて自分で弾いたと言えるのだろうか?と疑問を持ってしまいます。それって弾いたというより弾かされているだけじゃないですか? 本来は自分で即興的にアレンジを加えて自由に弾くのがエレクトーンの醍醐味だったはずです。

そういう昨今のエレクトーン事情に疑問を持つ人も多いのか、YouTubeを眺めていると昔のクラシックエレクトーンを修理して愛用している人も結構見かけます。やはり昔ながらのフルマニュアルで弾くスタイルにこだわりを持つ人は多いのですね。私自身も最近のエレクトーンは全くわからないので、ここでは触れません。あくまでもアナログタイプの初期のエレクトーンを対象としています。

構造的な違い

言うまでもなくピアノは弦を叩いて物理的に音を出すアコースティック楽器であるのに対し、エレクトーンは電気的に合成された音をスピーカーから出す電子楽器です。発音原理からして全く違います。

形態的な違いとしては、ピアノは鍵盤が1段で88鍵あるのに対し、エレクトーンは2段でそれぞれ4オクターブ(機種によって違います)に加え、ペダル鍵盤が1~2オクターブあるのが特徴です。機種によっては鍵盤が3段ある場合もあります。

当たり前ですが、ピアノは1つの音色しか出せないのに対し、エレクトーンはレバーの組み合わせで自在に音色を変えることができます。つまりシンセサイザーと同じです。初期のエレクトーンは全くリアルではありませんでしたが、ストリングス、木管楽器、金管楽器などの音を電子的に模倣し、それらを重ねて複雑な音色を作り出すことも可能でした。

ピアノはウェイトのついたハンマーを叩くのでタッチが結構重いですが、エレクトーンはバネ鍵盤なのでタッチは軽くスカスカです。そのためエレクトーンが弾けてもピアノは絶対弾けないと言われていました。

ピアノはタッチの強弱によって音量や音色が変わりますが、エレクトーンはどのような押さえ方をしても同じ音しか出ません。つまりオルガンと同じです。タッチで強弱は付けられないので、その代わりに右足で操作するエクスプレッションペダルによって音量を変化させます。それによって抑えめに弾いたり、グッと盛り上げたりして抑揚を付けていたわけです。ただし最近のエレクトーンはタッチレスポンス機能が付いているので、ピアノと同じように鍵盤のタッチで強弱を付けることも可能です。

奏法上の違い

構造以上に根本的に異なるのが奏法の違いです。ピアノから入った人にはピンと来ないと思いますが、エレクトーンは右手でメロディー、左手でコード、左足でベースを弾くのが基本です。一時的に入れ替わったりすることもありますが、基本はそういうことです。つまりそれぞれの鍵盤の役割が明確に分かれているのが特徴です。

それに対してピアノ(伴奏ではなく独奏の場合)は右手と左手の役割が明確に分離していません。というのはコードは中央のドを中心にして弾くのが最も美しく響くため、右手と左手がクロスオーバーする領域が出てきます。右手でメロディーを弾きながら同時にコードを押さえることもあるし、左手でベースを弾きながら同時にコードを押さえることもあります。つまり右手と左手を使って一つのコードを押さえる感じです。エレクトーンから入った人にはこういうところが非常にわかりにくく感じます。エレクトーンって足まで使うので難しそうと思われがちですが、実はベースを完全に足に任せられるため逆に簡単なのです。左手はコードに専念すればいいだけですから。また鍵盤が2段あるため、メロディーとコードで指がぶつかってしまうこともありません。ピアノだと指がぶつからないようにうまく避ける必要がありますが、エレクトーンから入った人にはここが難しく感じるのですね。

左手の動きもピアノとエレクトーンでは全く異なります。ピアノ、特にクラシックの場合は左手は楽譜に書いてある通り忙しく動き回ります。右手と左手はそれぞれ独立した声部を構成するというイメージです。それに対してエレクトーンの場合は基本的に左手はコードを押さえるだけです。細かく動くことはほとんどありません。ベースと一体になってリズムを刻むのが基本です。例えて言えばギターのストローク奏法によく似ています。ですから楽譜にはコードとリズムだけ書いてあれば十分です。

なぜピアノではなくエレクトーンを選んだのか?

自分がエレクトーンを習い始めたのは小学校の2年か3年くらいだったと記憶しています。つまり7歳前後ということですね。なぜ音楽に興味を持ったのかは記憶が定かではありませんが、幼稚園の時に学芸会でオルガンを弾いていたのをおぼろげながら覚えています。その頃から楽器に興味を持っていたことは間違いありません。

ではなぜピアノではなくエレクトーンを習いたいと思ったのか? その理由は今となっては全くわかりません。当時もピアノを習っている人の方が多かったと思いますし、やはりエレクトーンは高価でしたから、ピアノより安いということもなかったと思います。推測の域を出ませんが、おそらくエレクトーンならいろんな音を出せて楽しいとか、いろんな曲が弾けそうだからと思ったからじゃないでしょうか? それとも人と違うことをしたかったからでしょうか? 少なくともクラシックに興味を持ったことは一切ありません。ピアノという選択肢は初めからなかったような気がします。

レッスンの実際

教室の場所は文房具店の2階にあったスペースで、割と広めの何もない部屋にアップライトピアノとエレクトーンが1台ずつ置いてありました。当然ピアノ教室とも共用です。どこの系列だったかよくわかりませんが、ヤマハの系列ではなかったような気がします。教室にあったエレクトーンはテクニトーン(松下電器産業)でしたから。

形態は個人レッスンで週1回30分でした。レッスンの流れとしては、まず最初にピアノを使ってハノンの練習をやらされました。要するに単純な音型を繰り返す指の体操みたいなやつですが、当時はそれがハノンと呼ぶものだとは知りませんでした(笑)。自分はこれが大嫌いで、何でこんな退屈な練習やらなきゃいけないんだよ!と思ってました。なかなかうまく弾けなくて先生がOKと言うまで次に進ませてもらえないものですから、1ページ進むのにものすごく時間がかかりました(笑)。はっきり言って苦痛以外の何物でもなかったですね。そんな練習が最初の6~7分くらい、時には10分くらいに及ぶこともあったと思います。

それが終わるとやっとエレクトーンの練習に移ります。習い始めの頃はもちろん楽譜の読み方から教わりました。習う前からある程度楽譜は読めたような気がしますが、きっちり体系的に教わったのはそれが初めてです。楽譜を読むだけでなく、書く練習もさせられましたね。楽譜というのは読むより書く方がはるかに難しいのです。ですから楽譜を書く訓練をするのは最も効果的なんですね。それは今でも生きていると思います。

エレクトーンに特有の知識と言えばコードがあります。CとかFとかいうやつですね。とにかくこれを覚えないことにはエレクトーンは弾けません。本来は理論的な裏付けがあるのですが、当時はそんなことは全く知りませんでした。音楽理論的なことを習った記憶は全くなく、単純にパターンとして覚えていただけだと思います。まあギターコードを覚えるのと変わりません。そのおかげで自分は今でもコードが瞬時に押さえられます。ピアノから入った人はおそらくコードについては習わないんじゃないでしょうか? ピアノが得意でも意外とコードネームがわからない人多いですよね。

ある程度基礎ができたら本格的に曲の練習が始まりました。どんな教材を使っていたかですが、ヤマハの独自教材みたいなものはなかったと思います。主に先生が選んできた市販の楽譜集を使っていました。内容はどんなものだったかと言うと、当時の流行歌とか海外のポップスとかそういうものが多かったと思います。いわゆるポピュラー系です。クラシックや民族音楽的なものもたまにはありましたが、それは原曲ではなくポップス風にアレンジされたものでした。基本的にエレクトーンでクラシックをクソ真面目に弾くことはありません。それは今でも同じだと思います。

年数を重ねるにつれて次第にグレードが上がっていきます。といっても自分は真面目にやってなかったので(笑)、上達はとても遅いものでした。やはり一つの曲をある程度弾けるようになるまで繰り返し練習し、平均1曲につき3回くらいのペースで進んだんじゃないかと思います。でも最後の方になると自分がやる気なくなっていたので1曲で何ヶ月もかかったように思います。いい加減先生に呆れられてましたね(笑)。

エレクトーンのレッスンは実質15~20分程度しかなく、最後の5分ほどでソルフェージュの練習をやらされました。新曲視唱とも言いますが、全く知らない曲を楽譜だけを見て音名で歌うものです。音大入試では必須になってますね。これも当時は何のためにやるのか理解できなくて、エレクトーンを弾きたいのに何でこんなことをやらなきゃいけなんだよ!と思ってました(笑)。ただこれは音感や読譜力を養うために重要だったんですね。幼少の頃から始めるほど良いに決まってます。こういう退屈なことをやらされたおかげか、自分は今でも簡単な曲なら初見で弾くことができます。それなりに役に立っていたのでしょう(笑)。

やめた理由

もともと自分からやりたいと言って始めたエレクトーンですが、年数が経つにつれて情熱を失い、次第にやる気がなくなっていきました。中学生になった頃には完全に嫌々やっていた気がしますね。やっぱりいろんなことに興味が移り始めるし、音楽にも全く興味がなくなりました。いくらやっても上達しないことにも嫌気がさしましたね。何よりもああいう基礎練習を延々とやらされることが苦痛だったんですね。もし好きな曲を勝手に弾いていいと言われたらまた違っていたかもしれません。

そんなわけで受験勉強が忙しいとか何かと理屈を付けて(笑)、中学3年の時にレッスンをやめました。習っていたのは実質7年くらいじゃないかと思います。その割にレベルは低かったですね(笑)。一応10年習ったら講師の資格をもらえたそうですが、そこへ行くまでにやめてしまいました。それ以来、音楽とは疎遠になり、長いブランクが始まります。

後から思えばもっと真面目にやっておけばよかったということと、最後までやめなければよかったということですね。まあ後悔しても始まりません。

レッスン以外にやっていたこと

レッスンで与えられた楽譜集はもちろんですが、自分でいくつか楽譜を買って好きな曲を弾いていました。内容はやはり流行歌とか唱歌などをポップス風にアレンジしたものでした。少なくともクラシックを弾きたいと思ったことは一度もありません。エレクトーンはピアノと違って音色を自由に選べますから、いろいろ音色を変えて楽しんでいました。

それ以外に自分がよくやっていたのは流行歌のコピーです。テレビなどで聴いた曲を真似して、適当に伴奏を付けて弾くのが得意でした。エレクトーンを習い始めるまではまだ楽譜もちゃんと読めなかったので、むしろそれが普通だったような気がします。エレクトーンだとこういう即興演奏が簡単にできるんですね。というのはメロディーさえ覚えていればコードは適当に当てはめて弾けますし、ペダル鍵盤と左手で8ビートなどの単純なリズムを刻めば即興の伴奏になります。さらに当時のエレクトーンにもリズムマシンは付いていましたから、適当にリズムをバックで流せばそれっぽい演奏になりました。これをピアノでやれと言われたら無理だったと思います。やっぱり鍵盤が2段あることと、ペダル鍵盤の存在が大きいんです。

ピアノを始めたきっかけ

エレクトーンをやめてから10年ほど音楽から遠ざかっていたのですが、社会人になってからコンピュータを使ったDTMに興味を持ち出し、ついにシンセサイザーを買ってしまいました。まあエレクトーンをやっていたことから考えると自然な流れですよね。

当初はもちろん打ち込みで曲のコピーをしたり、作曲の真似事もしていたんですが、シンセサイザーでリアルなピアノ音を出せることに驚いたんですね。これってピアノの代用になるんじゃないか?と。ちょうどその頃同時にギターを始めたこともあり、コンピュータに演奏させるよりも自分自身で演奏することに楽しさを見出し始めました。もとからのプレイヤー精神が再燃したということでしょうか。

そうするとピアノを弾いてみたいという欲求が起こってきました。高校生の頃から突然クラシックに開眼したこともあり、ピアノといえばショパンだと思ってました。バイエルすらやったこともないド素人がいきなりショパンですよ(笑)。ちょうどその頃NHKでシプリアン・カツァリスが指導する「ショパンを弾く」という伝説の教育番組があり、これは渡りに舟と思ってすぐテキストを買い求めました。そして無謀にも一番最初に載っている前奏曲15番「雨だれ」を練習し始めました。フラットが5つも付く難しいキーだったのですが、61鍵しかないシンセサイザーでもギリギリ弾けたからです(笑)。

エレクトーンと違って右手と左手が別々に動くし、最初はこんなの弾けるわけがないと思ってました。しかし不思議なことに数日練習しているうちにちょっとずつ弾けるようになっていったんですね。弾ける部分がだんだん後ろに伸びていくのがうれしくて夢中で練習していました。そして2~3ヶ月くらいかかったと思いますが、ついに最後まで弾けるようになっちゃったんですね。自分にもショパンが弾ける! そんなうれしさで一杯でした。そして音楽する悦びをもう一度取り戻した気がします。

それから他にもショパンのノクターン2番とかベートーヴェンの月光1楽章とか、有名で弾きやすい曲をいくつか練習し、弾けるようになっていきました。ポピュラー曲も練習してはみましたが、なぜか弾くのはクラシックばかりになりました。

ただその頃、重大な問題が一つありました。それは鍵盤が61鍵しかないということです(笑)。これではほとんどのクラシック曲は弾けません。そこで無理やりオクターブずらしたりして弾いていました。その後76鍵のシンセサイザーに買い換えたりしましたが、それでも曲によっては鍵盤が足りません。それよりも鍵盤のタッチが軽すぎて、これでピアノが弾けると言えるのだろうかと疑問を持ち始めました。そしてまた10年くらい長いブランクに入っていきます(笑)。

電子ピアノ購入でピアノ再開

今から10年前のことです。ふとしたきっかけでまたピアノを弾き始めたのですが、シンセサイザーを持っていても結局ピアノとしてしか使ってないということに気付き、処分して電子ピアノを購入しました。これで晴れて88鍵、ピアノタッチ鍵盤が手に入ったわけです。今まで物理的に弾けなかった曲が弾けるようになり、あらゆる制約がなくなりました。もちろん本物のピアノとはまたタッチが違うのですが、少なくとも違和感で弾けないほどではありませんでした。ここが本当の意味でのピアノ人生の始まりだと言えます。

電子ピアノを手に入れて最初は昔やっていた曲の再練習を始めました。当然10年以上ブランクがあると忘れていて弾けません。でも楽譜を見ながらちょっと練習すればすぐ弾けるようになりました。やはり体が覚えているんですね。何よりシンセサイザーのスカスカ鍵盤で弾くよりはるかに楽だし、表現力も豊かで弾いていて気持ちよかったです。

そうして曲のレパートリーを増やしていき、ついにはショパンの幻想即興曲や革命のエチュードにまで手を出しました(笑)。バイエルもやったことがない人間には百年早いと言われそうですが(笑)、最初はゆっくりでもコツコツやっていけばいつかは弾けるようになるんですよ。個人的な意見ですが、ピアノの練習というのはちょっと背伸びするくらいがいいと思っています。普通はバイエルから初めて少しずつステップアップしていくんでしょうけど、そんなことをやってたらショパンエチュードに到達するまで何十年かかるかわかりません(笑)。ほとんどの人はそこへ行くまでにやめてしまいます。そうじゃなくていきなり難しい曲に挑戦するのがいいんです。どんな難しい曲でも細かく分解すれば一つ一つは単純なんです。結局はそれの積み重ねに過ぎません。別に失敗したって何も失うものはないんですからいいじゃないですか。難しい曲に挑戦することの最大のメリットは、それが弾けるようになるとほとんどの曲は弾けそうな気がしてくることです(笑)。

今ではピアノサークルにも参加し、本物のピアノを弾く機会が増えました。やはり電子ピアノとは勝手が違うので思うように弾けないこともありますが、本物のピアノでもちゃんと弾けるという自信は付きました。ピアノなんて一度も習ったことがないのでおそらくタッチとかめちゃくちゃだし、音楽的には破綻していると思いますが、クラシックをよく知らない聴衆をごまかせる程度に弾ければそれでいいと思っています。何より人前で弾くということはとても大事で、最初は緊張しまくりで全然弾けなかったですが、慣れてくると多少失敗しても動揺しなくなるものです。結局は慣れの問題なので、できるだけ人前に出る機会を増やすことが上達の秘訣です。

エレクトーンが得意な分野

ピアノとエレクトーンは全く異なる楽器ですから、それぞれに得手不得手というものがあります。だから優劣を付けることには意味がありません。ピアノは歴史の古い楽器ですからクラシックと相性が良く、繊細なタッチによって演奏者の個性を引き出せることに醍醐味があります。もちろんポピュラーピアノやジャズピアノという分野もあり、あらゆるジャンルに対応できる懐の深さがあります。エレクトーンと違って単一の音色で表現するわけですから、結局はアレンジの優劣や演奏技術で決まってくるのだと思います。

それに比べてエレクトーンはポピュラー系に特化した楽器だと言えます。発表会などを見ても基本的にクラシックを弾くことはありません。当たり前ですが、ピアノ曲は初めからピアノで弾いた方がいいに決まっているからです。クラシックの曲があったとしても、原曲そのままではなくポップス風にアレンジされたものがほとんどです。今のエレクトーンなら交響曲を再現することも可能だと思いますが、普通そんなことはやりません。それならDTMでやるのと大して変わらないからです。

エレクトーンというのは構造からしてポップス向きなんですね。というのは鍵盤によってメロディー、コード、ベースと役割がはっきり分かれているからです。これはバンドの構成そのものだとおわかりでしょう。ピアノ、特にクラシックの場合は右手と左手が独立した声部を奏でるのが主流で、こういう形をポリフォニーと呼びます。一方エレクトーンの場合はメロディーが中心にあって、それに伴奏が乗っかるという形をとります。こういう形をモノフォニーと呼びますが、現代のポピュラー音楽はほぼ全てがモノフォニーであると言えます。だからエレクトーンは構造的にポピュラー音楽に適しているのです。

エレクトーンの特性から考えると、最も本領を発揮するのは即興演奏だと言えます。もちろんエレクトーンでもきっちりアレンジされた楽譜を弾くことはありますが、それでは結局データを買ってきて同期演奏するのとあまり変わらないんですよね。エレクトーンというのは本来もっと自由な楽器です。

ジャズの世界ではメロディーとコードだけが書かれたリードシートというものを使い、テーマを一通り弾いた後は延々と即興を続けるのが典型的な演奏スタイルです。エレクトーンもそれに近いと思うんですよね。基本的にはメロディーとコードさえあればよく、耳コピができればそれさえも必要ありません。前にも書きましたが、私は子供の頃、流行歌の真似をよくやっていました。楽譜なんてありませんでしたが、そういうことが簡単にできてしまうのがエレクトーンの魅力なのです。それはメロディー、コード、ベースがはっきり分かれているからです。

同じことをピアノでやろうとすると結構大変です。まずコードは中央のドを中心にして弾くのが一番きれいに響くので、どうしてもメロディーと音域が被ってしまいます。しかも音色が同じですから、メロディーとコードを区別することも難しいです。したがってメロディーを1オクターブ上げるなどして衝突を避ける工夫をしなければなりません。でもそれだとメロディーが軽くなりすぎる恐れがあります。同様に左手は通常ベースを弾きますが、コードも左手で押さえるとベースとコードを行ったり来たりするのがとても忙しくなるわけです。そうするとコードも一部右手で肩代わりする必要が出てきます。もちろん慣れた人はそういうことを即興でやってしまいますが、自分にはとてもできません。やはり楽譜を起こしてアレンジを練らないと無理なのです。こういうことが即興でできる人には本当に憧れます(笑)。

その点エレクトーンなら鍵盤ごとに音色を変えられるのでメロディーとコードが明確に分離できますし、鍵盤が2段あるので音域が被ることもありません。もちろんベースは完全に足に任せられるので左手はコードだけに専念できます。だから自分でもエレクトーンでなら簡単に即興演奏ができたわけです。

以上から考えて、エレクトーンの特性を最も活かせる分野は即興演奏だと言えます。もちろんピアノでも即興演奏はできますし、できる人は心から尊敬しますが、楽譜を見ながら弾くのに比べて非常にハードルの高いことです。こういうところに小さい頃からピアノを習っていた人との差を感じてしまいますね。

日本のピアノ教育が抱える問題点

私はピアノを習ったことが一度もないのでピアノ教室では実際にどういうレッスンをしているのか実体験として知りませんが、いろいろ伝え聞くところによると今も昔も体質は変わらないんだなと思いました。日本のピアノ教育は相変わらずクラシック偏重主義なのです。

自分は一度もやったことがないのでよく知りませんが(笑)、ピアノ教室に入ったらまずバイエルから初めてブルグミュラー、ツェルニー、ソナチネ等へとステップアップしていくのが定番のようです。これらは全て古典的な教則本であり、クラシックにこそピアノのエッセンスが詰まっている、それは確かだろうと思います。

ただハノンのような基礎練習はある程度は必要だと思いますが、延々とこういう古典的教則本をやらされるのはどうかという気がします。だってピアノを習っている人は必ずしもクラシックを弾きたいわけではありません。自分はJ-POPを弾きたいんだという人も多いでしょう。それなのに杓子定規にクラシックの基礎を叩き込まれるのは回り道でしかないと思うのです。

ピアノってお稽古事として無理やり習わされていることも多いものです。そんな子供にとって、無味乾燥な練習を延々とやらされるとそれだけでピアノ嫌いになることは間違いありません。事実、自分もハノンをやらされて音楽嫌いになりました(笑)。それに耐えられない根性なしはやめろってことでしょうか? 相変わらず日本人が好きな根性論、精神論は健在のようです。本当は弾きたい曲があるのに、何年もそれをお預けにされると、そこへたどり着くまでにやめてしまう可能性が高まります。それでは教室にとっても生徒にとってもマイナスにしかならないでしょう。

自分が思うに、ポピュラーピアノをやりたいのならばクラシックの基礎は必ずしも必要ではなく、最低限の読譜力と指の柔軟性を鍛えることだけでいいと思います。そして一番大事なのはコードの知識です。コードさえわかればポピュラー音楽は弾くことができます。ところが日本のピアノ教室ではなぜかコードについてはあまり教えられていないようですね。クラシックにはもともとコードネームという概念はないのですが、必ず何らかのコードになっていることはポピュラー音楽と同じです。ただ和音をコードネームとして認識するのではなく、音符の集まりとして認識する傾向があると思います。そのため今どういう和音が鳴っているか瞬時に把握しにくいのです。おそらくは楽譜を機械的になぞっているだけで、和音のことまで意識が回っていないだろうと思います。クラシックピアノを習っていた人って意外とコードネームを知らなかったりするんですよね。これなどはクラシック偏重主義の弊害の最たるものだと思います。

クラシックでは楽譜は絶対ですから、とにかく楽譜の指示通りに弾くことが強要されます。もちろん型があってこその個性ですからそれは大切なのですが、クラシックをやらない人にまでそれを押し付けちゃうのはやはりマイナスにしかならないと思います。むしろ楽譜なんか使わずに好きな曲を耳コピで真似させてみる方がよっぽど良い練習になるんじゃないでしょうか。自分も習う前はそうやって曲を覚えていました。別に少々間違っていてもいいんですよ。耳コピというのは聴いた音を音符として記憶し(聴音)、それを音として再現する(演奏)という二つの作業を同時にやっているわけです。単に楽譜を演奏するよりも多くの作業をやっているので、音楽能力を鍛えるためには合理的な方法だと思います。

こういうことはおそらくジャズピアノの分野では普通にやっているのでしょうね。同じピアノでもクラシックとジャズでは方向性が180度違います。クラシックでは再現性が重視されますが、ジャズでは即興性が重視されます。ポピュラー音楽をやりたい人にとってはジャズピアノを習った方が早道であることは間違いないでしょう。ただジャズピアノ教室というのはあるにはありますが、少数派でなかなか近くにはないということもあるでしょう。相変わらず日本ではピアノといえばクラシックが主流なのです。クラシック以外は一段低く見られる風潮もいかがなものかと思います。

自分はエレクトーンというちょっと特殊な?レッスンを受けていたので、少なくともクラシックの洗礼は一切受けていません。その代わりコードで弾くのは得意です。それがエレクトーンを習っていて一番良かったことと後になって思えました。繰り返しますが、ポピュラー音楽にはコードが一番大事なのです。逆にクラシックピアノの基礎がないので、ピアノを弾くのはとても苦労しました。そこが小さい頃からピアノを習っていた人とのどうしても越えられない壁として意識され、コンプレックスにもなっている今日この頃です(笑)。

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