2018年5月に発売されたKORGのデジタルピアノD1をこのほど購入いたしましたのでレビューを兼ねて紹介します。
これまでは同じKORGのSP-250というモデルを使っていました。2012年1月に購入したので、7年半ぶりの買い換えとなります。概ね満足していて大きな不満はなかったのですが、以下買い換えに至った理由について述べます。
買い換えに至った理由
音源の古さが否めない
SP-250を購入したのは2012年ですが、実際には2005年の発売ですので、もう14年も前のモデルになるわけです。楽器といえども電子ピアノはデジタル機器ですから年々進化しており、さすがに古さを否めなくなってきました。PCM音源の音質はサンプリングの容量で決まると言っても過言ではありませんが、この時代の製品となるとそんなに大容量は積んでないでしょうから最新の機種に比べると当然見劣りします。また最近では当たり前のダンパーレゾナンスも搭載されていないため、ペダルを踏んだときの音の豊かさがどうしても物足りないと感じていました。やっぱりデジタル機器は最新のものには敵いませんね。
同時発音数が少ない
SP-250の同時発音数はスペック上60音ということになっています。当時としては標準的なスペックで普通に演奏する分には全然問題ないように思えますが、実はそうではないのです。60音というのはあくまでもオシレーターの数ですから、2オシレーターを同時に使う音色では半分の30音になってしまいます。当然ピアノの音色も2オシレーター使っていますから同時発音数は30音となり、しかもリバーブを使うとなぜか5音も減ってしまうという謎仕様で実際には25音になってしまうのでした。
それでも25音あれば通常の演奏には問題ないのですが、ペダルを踏んで音を持続させると足りなくなってくるのです。たとえばショパンのエチュードOp.10-1のように、ペダルを踏みっぱなしで大量のアルペジオを弾くような曲ではすぐ音が足りなくなって音切れが頻繁に起こります。そんなシチュエーションはめったにないとはいえ、性能的に弾けない曲が出てくるのはやっぱり面白くないのです。
でかい・重い
88鍵ですから横幅はどの機種も同じようなものですが、SP-250はスピーカーが上面に付いていて奥行きがかなりありました。しかも譜面台が後ろ側に付く構造なので、実際にはその分、壁から離して設置しなければなりません。というわけで、壁からピアノの前面まで50センチくらい場所を取ってしまうのが狭い部屋では結構邪魔でした。また重量が19kgもあり、スタンドも含めるとさらに重くなってしまいます。これは部屋の配置換えで移動するときにかなり大変でした。
機種選定のポイントは?
今回は初めての電子ピアノではなく買い換えですから、当然前よりもグレードアップになっていなければなりません。まあ音質についてはどれを選んでもSP-250よりは確実に進化しているでしょうから問題ありません。あとはメーカーによる音の好みの問題だけです。
やはり一番重要なのは鍵盤のタッチ。これは電子ピアノの命とも言うべきもので後から変えようがないものですから、絶対に譲れないポイントです。試奏して気に入ったのを選ぶしかありません。ただSP-250に搭載されているRH3鍵盤はKORG最上級のものですからタッチは非常に良かったです。逆に言うと、これより落としてしまうと確実に不満が出ることになります。そうなるとヤマハやカシオのエントリークラスは除外されてしまうため、自ずから選択肢は絞られてきますね。
それともう一つ気になるのは大きさ・重さの問題です。家で使うならそんなに問題はないように思えますが、電子ピアノは大型楽器ですから後で部屋を移動したり、引っ越しや買い換えの時に大変なことになります。そこまで考慮して購入しなければなりません。据置型かポータブル型かというところが一つの分かれ目になりますが、移動のことを考えると当然ポータブル型が有利になります。しかし据置型の安定感も捨てがたいのですね・・
比較した機種は?
まず予算を先に考えなければなりませんが、そうそう買い換えるものではないので10万円までは出しても良いと思います。もちろんその価格帯ではエントリークラスになりますので、本格的なものを求めると20万円以上になるのが当たり前です。しかしそこまで行くと金額的なことより重さの方が問題になってきますので、引っ越しの多い賃貸住まいではもはや無理ということになります。ですからほどほどの重さで考えると10万円クラスが限界となります。
10万円以内という条件で上に挙げた要求を満たすものとして候補に挙がったのは、ローランドのRP501R、コルグのC1 Air、そして同じくコルグのD1でした。価格的に言いますと、RP501Rが約9万円、C1 Airが約7万円、D1が約5万円となります。
RP501RとC1 Airは楽器店にありましたので何度も試奏して弾き比べました。今までコルグを使っていたので、気分を変えてローランドにしたいという気持ちもありましたね。何と言ってもローランドの鍵盤はこのクラスでは抜群にタッチがいいです。ただ試奏した結果、音がちょっと気に入らなかったんですね。悪い音ではないんですが、ちょっと軽めの音色でどちらかというとポピュラーやジャズに合うような気がします。これは好みの問題なので仕方ありません。それに重量が40kgとなると一人で動かすのはほぼ無理ですしね・・
KORG D1を選んだ理由
RP501Rが落ちた結果、C1 AirとD1で激しく迷うことになりました。この2機種、実はよく似ています。鍵盤はどちらも同じRH3ですし、音源的にもほぼ同等でしょう。非常に粗っぽい言い方をしますと、C1 Airから鍵盤部分だけを取り出したのがD1だとも言えます。C1 Airはスタンドやスピーカーが付いていますが、D1にはどちらもありません。完全に鍵盤と音源だけなのがD1です。本体だけでは音すら出せません。初めてピアノを買う人なら何も付いてないD1を選ぶことはないと思いますが、幸か不幸か(笑)私は昔からシンセを使っていたため、スタンドやモニタースピーカーは初めから揃ってるんですね。だから後から買い足すものが何もありません。
そうなると後は据置型かポータブル型かの選択になります。C1 Airは据置型の中では比較的軽量で35kgなのですが、それでも大きな箱を開けて一人で組み立てるのは大変です。もちろん買い換えるのは自力では困難で、業者に引き取りを依頼するしかないでしょう。電子ピアノはデジタル機器ですから、常に買い換えのことまで意識しなければなりません。ポータブル型であれば車でリサイクルショップまで運ぶことが何とか可能です。古くなっても簡単に買い換えられるということは大きなメリットなのです。
機能的にはC1 Airの方が優れているところがあります。D1にはなくてC1 Airにある機能としては、録音機能、Bluetoothスピーカー、スプリット音色、3本ペダルなどがあります。ただ録音機能はPCのDAWを使えば済む問題なので必須ではないし、Bluetoothスピーカーも自分は必要ありません。この中で演奏上、一番重要なのは3本ペダルです。D1にはダンパーペダルしか接続できませんが、C1 Airはソフト、ソステヌートペダルも付いています。ただ実際のところダンパー以外のペダルを使う機会ってまずないんですよね。ポピュラーはもちろん、クラシックでも楽譜にソフト、ソステヌートの指示が書いてあるのを見たことがありません。そんなのは音大を出たくらいのレベルでないと使う機会はないでしょう。したがって実用的にはダンパーさえ使えれば良いのでD1でも十分ということになります。
同時発音数の違いが決め手
D1とC1 Airの内蔵音色リストをコルグのマニュアルから抜粋して比較してみましょう。
まずこれがD1の内蔵音色です。
次にC1 Airの内蔵音色。
昔からコルグの電子ピアノは似たような音色配列になっていて、D1とC1 Airもほぼ同じなのですが、よく見るとC1 Airはジャーマン・グラントピアノとジャパニーズ・グランドピアノという2種類のサンプルを内蔵していることがわかります。このクラスでサンプルを2つ内蔵しているのは珍しいので、これはかなり魅力的ではありますね。一方、D1はサンプリングしたピアノの種類は特に明記されていません。おそらくは1種類のみでしょう。
それともう一つ違うのは最後のバンクです。C1 AirにはBASS&PIANOというバンクがあって、鍵盤を2つに分けて低音部をベース音色、高音部をピアノ音色で弾けるようになっています。いわゆるスプリット音色というやつですね。一台でジャズセッションを楽しめるということでしょうか? その代わり、C1 Airではクワイア音色が少なくなっています。
しかし決定的に違うのはピアノ音色の同時発音数です。音色リストの一番右端、#と書いてある欄に注目して下さい。これは1音色あたり何オシレーター使っているかを表しています。D1ではコンサート・ピアノ、グランド・ピアノ、ジャズ・ピアノだけが3となっています。これはちゃんとした理由がありまして、まずステレオサンプルですから2オシレーターは必ず使います。それにプラスして、ダンパーレゾナンスを重ねるためにもう1オシレーター使っているわけです。これはマニュアルをちゃんと読めばわかります。
一方、C1 Airではジャーマン・グランドピアノ、クラシック・ピアノ、ジャパニーズ・グランドピアノだけがなぜか4オシレーターも使ってるんですね。1つはダンパーレゾナンスだということはわかりますが、もう1つは何のために使っているのか不明です。おそらくはダンパーレゾナンスをステレオにしているのか、それともダンパーノイズやキーノイズを重ねているのかもしれません。
4オシレーター使うことによって音色がリッチになる可能性はありますが、どちらも最大発音数は120音ですから、C1 Airでは実質的な同時発音数が30音になってしまいます。これではSP-250とあまり変わりません。一方、D1では3オシレーターですから40音は確保できます。もともと同時発音数の少なさが問題になっていたわけですから、この違いは大きいですね。
最終的には同時発音数の違いが決め手になってD1に決まりました。
Amazonタイムセールがお買い得
D1は一般的な電子ピアノとコンセプトが異なるせいか、楽器店にはあまり置いてありません。そのため試奏は難しいのですが、鍵盤自体はC1 AirやG1 Airと同じですから、それを弾けばわかります。音質的にも同じKORGですからほぼ同様の傾向と思って間違いありません。自分も試奏なしで買いました。アフターサポートが気にならない人なら、やはり通販で買うのが便利でしょう。
D1は昨年出たばかりの新製品ですから、まだ値引きはほとんどありません。通販だと4万9千円台が通常価格です。ただAmazonでは月に一度のタイムセールでたまに値引きすることがあります。いつもあるとは限らないのですが、まめにチェックしておくといいでしょう。私は約42,000円で買うことができました。
レビュー
以下、製品について簡単にレビューしてみます。
外観について
見ての通り、C1 Airの鍵盤部分と非常によく似ています。斜めの線が一切なく、完全な直方体形状です。こういうデザインは最近のピアノには珍しいですが、かえって斬新な感じがしますね。一切の無駄を削ぎ落とした美学を感じます。
また驚くのは筐体がオール木製だということです。プラスチックは一切使われていません。木製と言っても単板ではなくMDF材のようですが、オールプラスチックのポータブルピアノが多い中でコストをかけた作りはコルグの心意気を感じます。ただそのせいで非常に重くなっているのですけどね・・
サイズと重さについて
D1の特徴はスピーカーを廃したことによるスリムさです。奥行きが約26センチしかないのはコルグの電子ピアノでは最もスリムとなっています。まあ最近ではカシオのPX-S1000に負けてますけど、最高級の鍵盤を搭載してこのサイズですから立派なものです。
しかし見た目に反して非常に重く、16kgもあります。最近は11kg台のポータブルピアノが多い中で、これは最も重量級と言えるでしょう。真四角な形状が災いして指が掛かるところがないので、実際の重量以上に重く感じます。むしろ19kgあるSP-250の方が運びやすい感じでした。
ただ重いのにはちゃんとした理由があり、しっかりしたタッチを実現するためにはどうしてもこの重さになってしまうのです。軽さを売りにしたピアノはそれだけ鍵盤がしょぼいということですね。それにスタンドに載せたときには重い方が安定します。あまり軽すぎるとスタンドの上で動いてしまったりするので、ライブで使うステージピアノは20kg前後あるのが普通です。それに比べるとまだ軽い方ですね。まあ重さはあきらめましょう(笑)。
決して軽くはありませんが、男性なら一人で運ぶことは可能です。ライブで外へ持ち出すにも車があれば何とかなるでしょう。
鍵盤
D1の特徴は何と言ってもこのサイズと価格でKORG最上級のRH3鍵盤が手に入るということでしょう。RH3についてはSP-250の時から使ってましたから、タッチの良さは実証済みです。耐久性も素晴らしく、7年半使ってもビクともしませんでした。タッチは他のメーカーに比べると重め、指を離したときの戻りも自然で良い感じです。気になる鍵盤のカタカタ音もそれほど大きくありません。
RH3鍵盤は日本製で京都の美山で作られています。おそらくD1の中身はほぼこの鍵盤ユニットだけだと思います。
RH3鍵盤は完全なボックス形状で、打鍵したときも隙間が見えません。実はこういう真面目な作りは珍しく、ヤマハやローランドのエントリークラスだと打鍵したときに隙間が見えて萎えます。ボックス鍵盤と言いながら、普通のシンセ鍵盤に前垂れを付けただけなんですよね。演奏するには何の関係もないんですが、見えないところで手抜きしているのが気に入らないんですよね。実はRP501Rを見送ったのはこれに気付いてしまったのが原因でした(笑)。
コネクター類
コネクター類は背面左端に集中しており、LINE OUT(L/R)とMIDI(IN/OUT)、ダンパーペダル、電源端子が装備されています。家庭用の電子ピアノだとライン出力はステレオミニジャックが普通ですが、D1はステージピアノという位置付けですから左右独立した標準サイズのジャックが付いているのは大きな魅力でしょう。MIDI入出力もちゃんと付いているのでマスターキーボードとしても使えます。最近はUSB端子が付いていることが多いですが、他のシンセなどと接続するにはやはり独立したMIDI端子の方が便利です。まあ欲を言えばUSB端子も付いていた方がPCに接続するには便利ですけどね。
一つ難点を言いますと、コネクター類が左端に集中しているため、ケーブルの取り回しに困ることがあります。たとえばアンプを右側に置いているとどうしてもコネクターが遠くなってしまいますよね。こういうのは中央に配置した方がどちらからもアクセスしやすくて便利だと思うのですが、おそらく鍵盤がギリギリ奥まで入っているのでこういう配置にならざるを得ないんでしょうね・・
ヘッドホン端子
ヘッドホン端子は前面の左端に1個だけ付いています。家庭用の電子ピアノは二人で弾くことを想定して2個付いていることが多いのですが、1個しかないとレコーディングでヘッドホン端子を使ってしまうとヘッドホンでモニターできないという問題が生じます。まあライン出力から取ればいいだけなんですが、できれば2個あった方が便利だと思いますね。
それと最近はヘッドホンもステレオミニプラグが一般的になってますが、プロ用の機材では未だに標準プラグが一般的です。ミニプラグって接触不良を起こしやすくて嫌いなので、ここはプロ機材らしく標準プラグにしてほしかったですね。
なお一般的なシンセと同じく、ヘッドホンを差し込んでもラインからの音は切れない仕様です。したがって外に音を出したくない場合はスピーカーの音量を下げるか電源を切る必要があります。この辺は一般の電子ピアノと違って面倒な部分です。私はミキサーを使ってスピーカー音量の調整をしています。
譜面台
D1を買う前に一番気になっていたのは譜面台でした。一枚の板ではなく最近よくあるフレームだけのタイプなので、不安定な感じがしていたんですよね。しかし実際に買ってみると杞憂でした。
譜面台は受け皿の部分も含めてオール金属製で非常にしっかりしています。ページがめくれないように反り返しが付いているのも親切です。真ん中に横棒があるのでスマホやタブレットを載せても大丈夫です。思っていたよりも良いものでした。譜面台は後ろから差し込む形になるので、壁との間に15センチほどスペースを空ける必要があります。
譜面台の横幅が狭いように見えますが、全音のピアノ楽譜がピッタリ収まるサイズです。一般的な楽譜はこのサイズですから全く問題ありません。
操作パネル
D1だけでなく、コルグの電子ピアノの特徴は操作性が非常に良いということです。なぜかというと多くの電子ピアノは操作ボタンが極端に少なく、複数のボタンを同時に押したり、鍵盤と併用する操作を強いられるからです。その点、コルグの電子ピアノにはしっかりした操作パネルが装備されており、ほとんどの操作をボタンだけで行うことができます。この辺はシンセメーカーらしい配慮ではないでしょうか?
これが操作パネルの全体。気付いた人もいるでしょうが、実はLP-380の操作パネルと全く同じものです。おそらく部品を共通化してコストダウンを図っているんでしょうね。操作パネルが左端にあるので、演奏者からはちょっと見にくいのが不満かもしれません。
各種コントロール部です。一番大きいのがボリュームですが、アナログ式なのはいいですね。ローランドなどはボタン式になっているものが多いのですが、あれは瞬時に操作ができないので大嫌いです。ローランドを選びたくない理由はそこにあるんですよね。ただこのボリュームノブですが、指標がわずかな彫り込みだけで色が付いてないので非常に見づらいのが気になります。特に演奏者の視点からは全く見えません。コストダウンなのか知りませんが、せめて白く塗ってほしかったですね。
またトランスポーズ、タッチ強度、各種エフェクトなど、よく使う機能が独立したボタンになっているのが素晴らしいですね。他のメーカーはなぜかこういうボタンがなくて2つのボタンを同時に押すという意味不明な操作を強いられます。操作性ではコルグの圧勝です。
これが音色選択ボタン。操作は非常にシンプルで、まず右側の10個のボタンでカテゴリーを選んだ後、BANKボタンを押して好きな音色を選びます。つまり10カテゴリー×3バンクで計30音色が即座に選択できます。この単純明快さは他のメーカーにはない特徴です。他のメーカーでは音色ボタンを押しながら特定の鍵盤を押すという操作になっているものが多いですが、それではいちいちマニュアルを見ないとわからないし、演奏中に切り替えることもできないので非常に不便です。
またカテゴリーボタンを2つ同時に押すとレイヤーモードとなり、2つの音色を重ねて演奏することができます。レイヤーごとの音量バランスやオクターブも変更可能です。シンセのような自由度はありませんが、これだけでもある程度の音作りは可能ですね。ピアノとストリングスを重ねてゴージャスな雰囲気を出すこともできますよ。
電子ピアノにはディスプレイが付いていないものも多いですが、D1には3桁のLEDディスプレイが付いています。メトロノームのテンポ表示のほか、各種設定にも使われます。メトロノームのテンポ指定はディスプレイ横の±ボタンで行います。またメトロノームボタンを長押しすると拍子やアクセント音など、メトロノームの設定モードに入ります。
ペダル
D1にはダンパーペダルが付属していますので、とりあえずは演奏することができます。思ったより小さなものなので驚くでしょう。ただハーフペダルには対応していないため、クラシックピアノの微妙な表現には不向きです。別売のDS-1Hは必須と思った方がいいでしょう。
私は昔からKORGのシンセを使っていた関係でDS-1Hをすでに持っていたため、買う必要はありませんでした。やはりこちらの方が大きくて踏みやすく、滑り止めのゴムが付いているので使いやすいです。値段も3千円程度のものですから、ケチらずに買った方がいいと思います。
スタンド
スタンドは純正品が用意されていますが、ちょっと値段が高いのと、本体を買い換えたときに無駄になってしまうので私は未だに手を出していません(笑)。もちろん専用品だけあって本体とネジでしっかり固定されるので安定感は抜群です。値段が気にならないのなら純正品を買った方がいいでしょう。
代わりに私は前から持っていた汎用の4本足スタンドを使っています。価格は5千円前後の安いものです。専用品と違って上に載せるだけですので、やはり力を入れすぎると動いてしまったりします。X型のキーボードスタンドはコンパクトに折り畳めるのが魅力ですが、下に足を入れにくいため、私は使っていません。
ピアノの音質について
私はほとんどピアノの音色しか使わないのですが、アコースティックピアノの音色は全部で5種類あります。PIANO1のコンサート・ピアノは重厚感のあるリッチな響きで、ほとんどのジャンルにはこの音色だけで対応できるでしょう。バンク2のグランド・ピアノは少し明るめの音色で、中音域がやや薄く感じます。どちらかというとポピュラー系には比較的マッチするかもしれません。バンク3のポップ・ピアノは明らかにサンプルが異なり、硬質でサステインの短いチープな音色です。どちらかと言うとエレピのようにも聞こえます。パンチの効いたロック向けのサウンドと言えますね。
PIANO2のジャズ・ピアノはグランド・ピアノよりもさらに軽い音色で、おそらくバンドにうまく溶け込むようにチューニングされているのだろうと思います。ソロで弾くにはあまり向いていません。バンク2は調律のずれたいわゆるホンキートンクピアノとなっています。これも特殊な用途でしか使わないでしょう。
よって、ソロで弾くにはコンサート・ピアノとグランド・ピアノさえあれば十分だと思います。どちらもダンパーレゾナンスがよく効いており、ペダルを踏んだときの音の伸びや広がり感がかなり本物らしくなっています。ヘッドホンで高音域を弾くとよくわかりますが、打鍵したときのメカノイズもちゃんと再現されています。反面、ペダルを踏みすぎると音が濁りますので、ペダルの使い方には気を配る必要があります。
音作りの自由度と気になる点
音作りに影響するパラメーターとしては、ブリリアンス・タッチ強度・リバーブ・コーラスの4つがあります。このうちリバーブ・コーラスについては音色ごとに初期値が設定されており、音色を切り替えるたびに変化します。もちろんそこから好みで変えることはできます。
ブリリアンスは音の明るさを変えるもので、3段階から選ぶことができます。タッチ強度は鍵盤を押したときのレスポンスを設定するもので、実際に鍵盤が重くなったり軽くなったりするわけではありません。全部で5種類ありますが、「安定」と「一定」を除けば実質的には3種類です。タッチを「重め」にするとppからffまで変化の幅が大きくなり、表現力が増しますが、その分より強い力が要るようになります。指を鍛えたい人向けですね(笑)。
ちなみに私の好みのセッティングは、PIANO1のコンサート・ピアノでブリリアンスを3に設定しています。標準の2だとちょっとこもった感じの音色なので、このくらいの方がメリハリが効いて良い感じがします。またコーラスを1に設定してやると、わずかに音に厚みを付けることができます。
残念な点としては、いずれのパラメーターも3段階しかないので、微妙な調整がしにくいことですね。1段階変えると結構極端に変わってしまうので、その中間が欲しいと思うことはよくあります。せめて5段階は欲しいと思いますし、せっかくLEDディスプレイがあるのですから10段階くらいあっても全然問題ないと思います。
あとコルグの他の機種にも言えることですが、電源を切ると設定がすべてリセットされてしまうのがやや不便です。まあ初心者にとっては変にいじっても元に戻るので、その方が都合良いのでしょうけど、やはり好みの設定を記憶する機能は欲しいところです。音作りといってもせいぜい1つか2ついじるだけなので、それほど手間ではないんですけどね。
試奏動画
拙い演奏ですが、実際に演奏した動画をアップしましたので音の参考にして下さい。なお音声はライン出力から直接録音しています。
外部スピーカーについて
D1にはスピーカーが内蔵されていませんので、ヘッドホン専用にしない限り、外部スピーカーが必要となります。シンセをやったことがある人ならわかると思いますが、プロ用の機材はPAを通して出力することが前提なので、もともとスピーカーは必要ないわけです。電子ピアノに内蔵されているスピーカーというのはスペースの関係上、そんなに大きなものを積めませんから、しょせん音は大したことありません。それならば初めから外付けにした方がはるかに良い音がしますし、合理的な割り切り方だと思います。
ただ初めて電子ピアノを買う人にとってはこの点がかなり高いハードルになることは間違いありません。スピーカーも凝り出すとピアノ本体より高くなってしまいますからね、かなりの追加投資が必要になってしまいます。それなら最初からスピーカー付きの電子ピアノを買いたくなる気持ちはよくわかります。
私の場合は昔からシンセをやっていましたので、すでにモニタースピーカーは持っていました。現在使っているのはヤマハのMSP5というモデルで、もう20年近くになりますが、今でもモニタースピーカーの定番になっています。さすがにこのクラスになると非常に良い音がします。ただペアで5万円ほどしますので、いきなりD1と同時に買うのはちょっと敷居が高いでしょう。
比較的安価で良質なものとしては、TASCAMのVL-S3をおすすめしておきます。室内練習用のモニターとしてはこのくらいで十分でしょう。コンパクトなのでピアノの横に置いても邪魔になりません。ただし、スピーカーが小さいのであまり低音は出ないと思って下さい。
これでも1万円近くしますので高いと思う人がいるかもしれませんね。とりあえず音を出したければ数千円で売っているスマホ用のリスニングスピーカーでも十分です。その場合はライン出力ではなくヘッドホン端子に接続することになります。冗談みたいですが、ダイソーで売っている300円スピーカーも意外と良い音してますよ(笑)。とりあえず音を出すだけならそれでもOKです。
はっきり言って音質はスピーカー次第で決まります。そこが一般の電子ピアノとは違うところで、面白いところでもありますね。良いスピーカーを使ってみれば、ピアノ内蔵のスピーカーがいかにしょぼいかよくわかるでしょう。
総評
D1のコンセプトとして、一般的な家庭用デジタルピアノとは異なるということをまず念頭に置かなければなりません。つまり、これはライブで使うことが前提のステージピアノというカテゴリーに入ります。もちろん室内で使っても良いのですが、スピーカーやスタンドが別途必要になってしまうため追加投資が必要です。初めて電子ピアノを買う人なら、やはりスピーカー内蔵型にした方が扱いやすいし、結果的に安くなります。
したがって、D1が向いているのは目的がはっきりしている人だと思いますね。まずモニタースピーカーなどの環境をすでに持っているか、投資を厭わないことが条件です。そしてライブで使うかどうかはともかく、可搬性を重視する人には向いています。やっぱり電子ピアノの買い換えって大変なんですよ。あと独立したMIDI端子が付いていますから、マスターキーボードとして使いたい人には大いにおすすめします。
価格帯から言ってライバルはヤマハのP-125やカシオのPX-S1000あたりになるのかなと思いますが、カテゴリーが異なる商品なので直接の比較はできないと思いますね。スピーカーを内蔵していて価格帯が同じということは、当然鍵盤の質が落としてあるということです。それに対してD1のRH3鍵盤はKORGの最高級ステージピアノGrandStageに搭載されているものと全く同じです。おそらくD1の価格のほとんどは鍵盤の値段だろうと思います。したがって、5万円程度で最高級の鍵盤が手に入るということに価値があるのです。余計な機能は要らないから本格タッチの鍵盤が欲しいという人にこそ向いています。ステージピアノというのは従来20万円近くしていましたが、この価格帯でステージピアノを投入してきたことは史上初であり、今のところ無敵の存在ではないかと思いますね。
コメント
いいね!押せないのでこちらから感謝を伝えたいと思います。
とっても参考になりました。
ペダル3本じゃない事を差し引いても貴重な機種だと分かりました。
コメント誠にありがとうございます!
実際にペダル3本使うことはほとんどないので別に困りません(笑)。