Notion 5とPrintMusic 2014を比較する(2)

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NotionとPrintMusicの入力方式は、大きく分けてマウス入力・ステップ入力・リアルタイム入力の3通りの方法があります。このうちマウス入力は最も一般的なもので、五線上に音符をマウスで一つ一つ置いていく方式です。この方式の利点はとにかく譜面を視覚的にそのまま写せばよいので、楽譜が読めない人でもとりあえず入力が可能なことです。ただ、一つ一つ音価(音符の長さ)を指定しながら正確な音高に置いていくのは微妙なマウス操作を要求され、長時間やっていると疲れてきます。特に和音の入力などはめんどくさくてやってられません。上級者になるほどまどろっこしく感じるのは否めません。僕もこの方式は基本的には使いません。両ソフトともマウス入力の方法は似たようなもので、多少の操作性の違いはありますが、慣れればどちらも同じように使えるでしょう。もしマウス入力しか使わないのであれば、どちらを選んでも作業効率に大差はないと思います。

一方リアルタイム入力はMIDIキーボードで演奏したものをそのままのタイミングで記録するものです。ある程度鍵盤が弾ける人なら音価をいちいち意識する必要がないので便利であり、最も速い方法です。ただ、この方法ではたとえメトロノームに合わせて弾いたとしても完璧にタイミングを合わせることは難しく、どうしても意図しない音価で記録されてしまったりします。たとえば4分音符を弾いたつもりが付点8分音符と16分休符の組み合わせで認識されてしまったりするわけです。一応インプットクォンタイズなどの機能はありますが、それでも完全ではなく、いずれにせよ入力後に修正が必要になってしまいます。自作曲のメモ程度なら使えると思いますが、きっちりした楽譜に仕上げるには相当な修正が必要になり、結局は速いとは言えません。

したがって、ある程度熟練したDTMユーザーが最も好む方式はMIDIキーボードを使ったステップ入力が本命になると思います。この方式ではPC側で音価を指定しながら、音高はMIDIキーボードで直接指定していきます。楽譜が読めることが前提になりますが、和音も一度に入力できるので、慣れれば最も効率の良い方法です。楽譜作成ソフトにとって、このステップ入力のしやすさが使い勝手を左右すると言っても過言ではありません。そこで今回はNotionとPrintMusicにおけるステップ入力について詳しく比較したいと思います。

PrintMusic 2014におけるステップ入力

PrintMusicでは、MIDIキーボードを使ったステップ入力のことを「高速ステップ入力」と呼んでいます。基本的にはMIDIキーボードで任意の音高を押さえながら、PCのキーボードで音価を指定していくという方式になっています。音価の指定にはPCの数字キーを使い、6なら2分音符、5なら4分音符、4なら8分音符・・というように、数字が1つ小さくなると音価が半分になる仕組みになっています。規則性があるので簡単に覚えられるでしょう。また付点のついた音符はピリオド(.)を押すことで指定できます。なお休符は鍵盤を何も押さえずに数字キーだけを押すことで入力します。

この方式ではMIDIキーボードとPCのキーボードを同時に操作する必要があるので、両手を使うことが必須になります。これは多少めんどくさいと感じるかもしれませんが、鍵盤を押さえた後に数字キーを押して初めて音符が入力されるため、鍵盤を弾くだけでは何も入力されません。そのため、自作曲などで一つ一つ音を確かめながら入力したいときには便利であり、なかなか合理的な方法だと思います。

またそれがわずらわしく感じる場合は、CapsLockキーをオンにすることにより「ハンズフリーモード」にすることもできます。この場合は先にPCの数字キーで音価を指定してからMIDIキーボードを弾くと、同じ音価で連続して入力されます。同じ長さの音符がたくさん連続するような場合にはこの方法を使った方が便利かもしれません。

もう一つ、MIDIキーボードを使わずにPCのキーボードだけでステップ入力する方法も用意されています。「高速ステップ入力」メニューのオプションで「MIDIキーボードを使用」のチェックを外すとこのモードになります。この場合はキーボードのカーソルキー上下を使って五線上の音高を指定し、数字キーで音価を指定して確定させます。手元のキーボードだけで操作できるので、ある程度慣れればこれも効率的な方法かもしれません。

以上のように、PrintMusicでは作業者のレベルや好みに合わせて多彩な入力方法が用意されているところが特徴です。

Notion 5におけるステップ入力

Notion 5ではツールバーのステップ入力アイコンを押すか、Ctrl+Eのショートカットキーを押すことによりステップ入力モードに入ります。基本的にはPCのキーボードで先に音価を指定した後、MIDIキーボードを押さえることで音符を入力します。つまりPrintMusicにおける「ハンズフリーモード」とまったく同じ操作方法になります。ただし音価の指定に使われるショートカットキーはPrintMusicとは異なり、2分音符がHalfのH、4分音符がQuaterのQ、8分音符がEighthのEというように、英語の頭文字を取ったものになっています。また付点のついた音符はDotの頭文字Dを押すことで指定します。英語が苦手な方には少々取っつきにくいかもしれませんが、せいぜい5つほど覚えれば十分なので別に難しくはないでしょう。休符は音価のキーを2回続けて押すか、スペースキーを押すことで入力します。なお設定によってPrintMusicと同じ数字キーに変更することも可能です。

音価を先に指定する方式では片手だけで続けて入力できる反面、音価が頻繁に変わる場合には結構面倒になります。同じ長さの音符が連続する場合には便利ですが、そうでない場合はPrintMusicの標準方式の方が楽です。またこの方式では鍵盤を弾いただけで音符が入力されてしまいますので、音を確かめながら入力するにはいったんCtrl+Eキーを押してステップ入力モードを抜け、改めてステップ入力モードに戻す必要があります。既存の楽譜を入力するにはあまり必要がないと思いますが、自作曲などで常に音を確かめる必要がある場合はかなり面倒になります。したがって、どちらの方式が優れているかはケースバイケースで一概には言えないのですが、あえて言えば複数の方法が用意されているPrintMusicの方が親切だとはいえます。

notion_virtual_piano
PrintMusicにはないNotionの特徴として、バーチャルキーボードが挙げられます。これは通常のMIDIキーボード入力の代わりになるもので、単音モードと複音モードが用意されています。左上にある音符のアイコンで切り替えます。単音モードの場合は普通のステップ入力と同じようにPCのキーボードで音価を指定してから鍵盤上をクリックすると、その音高で音符が入力されます。また複音モードの場合は鍵盤上をクリックすると反転表示されて、次々とクリックすることができます。そして最後にEnterキーを押すと和音が一斉に入力される仕組みになっています。PrintMusicのようにキーボードだけで操作はできませんが、鍵盤に慣れている方であれば視覚的にわかりやすい方法だと思います。また楽器によって演奏できない音域はグレー表示してくれるため、誤って演奏不能な譜面を作ってしまう失敗も防げます。上の図はヴァイオリンの場合ですが、すべての楽器で音域を表示してくれるのは親切な設計だと思います。

移調楽器におけるステップ入力の違い

以上説明したように、PrintMusicとNotionでは音価を先に指定するか後で指定するかの違いが最も大きかったのですが、それは場合によって便利だったり不便だったりするので、本質的にどちらが良いとは言えませんでした。ところが移調楽器に限っていえば、Notionには致命的な欠陥があることを発見してしまいました。

移調楽器というのはオーケストラの楽譜でよく見られるもので、譜面上の音高と実際の音高が異なるものです。なぜそんなことをするのかといえば、管楽器の場合はチューニングを変えることができないため、楽器によって演奏できる音階が決まっているからです。一般的に管楽器は長さの異なる楽器が複数存在し、それぞれ異なる音階を同じ運指で演奏することができます。したがって管楽器の奏者は楽器を持ち替えることにより、同じ譜面・同じ運指で異なる音階を演奏できるわけです。このため一般的には譜面に書かれた音高と実際の音高(実音)は異なります。

さてPrintMusicとNotionはどちらもこの移調楽器に対応していて、譜面通りに記述すれば実際の音高に移調して演奏してくれる機能を持っています。だからいちいち実音に直して入力するなど面倒なことはしなくて済むはずなのです。ところがPrintMusicとNotionで試してみると挙動は全然違うものになりました。

例として、B♭管のクラリネットで試してみます。他の楽器でも動作はまったく同じです。B♭管の場合は譜面上にドレミファソラシドと書いてあれば、実際にはシ♭ドレミ♭ファソラシ♭と長2度低い音、すなわち変ロ長調で演奏されます。逆に言えば、譜面上では実音より長2度上げて記譜されるわけです。

printmusic_clarinet_Bb
まずPrintMusicでMIDIキーボードからドレミファソラシドを弾いてみました。すると演奏した通りにドレミファソラシドと入力されました。譜面は長2度高いニ長調になっていますから、ドとファにはナチュラルが付きます。またこの譜面を再生してみると、ちゃんと長2度低いシ♭ドレミ♭ファソラシ♭と演奏されます。当然これが期待されるべき動作ですね。

notion_clarinet_Bb
今度はNotionで同じようにドレミファソラシドを弾いてみました。するとご丁寧に長二度上げてレミファ#ソラシド#レになってしまうのです! もちろんこれを再生すると長2度低いドレミファソラシドと演奏されます。つまりMIDIキーボードからの入力は常に実音だとみなされるわけで、移調楽器のパートに入力するには常に実音(この場合はシ♭ドレミ♭ファソラシ♭)で演奏しなければならないことになります。

普通オーケストラの譜面を入力するには、譜面を見ながらそのまま打ち込むわけで、移調楽器は楽譜の記述通りに入力したいわけです。わざわざ頭の中で移調して実音で入力するなんてめんどくさいことはやってられません。しかしNotionでステップ入力するには実音に直すしかないのです。いくら探してもこれを回避する方法は見つかりません。あえてやるならばMIDIキーボード側でトランスポーズ機能を使って移調するしかありませんが、それもパートごとに設定を変えるのは面倒です。したがってNotionで移調楽器を入力するにはマウス入力するしか方法はありません。もちろんマウス入力の場合は譜面を見た通りに入力すればよいのでそのような問題は起こりません。しかしなぜNotionはこんなアホな仕様になっているのでしょうか? これはもう欠陥というかバグのレベルです。誰もこんな入力方法は望まないはずです。常に実音で入力することに何らかのメリットがあるのでしょうか?

Notionはもともとオーケストラの指揮者が企画したもので、オーケストラの再現性を何よりも重視しています。そのために高品質な音源ライブラリが付属しているわけで、その音の良さを実感すれば誰もがオーケストラアレンジに使いたいと思うはずです。それなのになぜこんなちぐはぐな仕様になっているのか意味不明です。もしかするとNotionはもともとiPad版アプリを先行して開発してきた経緯があるため、マウス入力(iPadの場合はタッチ入力ですが)を主体としており、ステップ入力はオマケ程度にしか考えていないのかもしれません。しかし大多数のDTMユーザーはステップ入力をメインとしていますから、PCソフトとしてはステップ入力が満足にできないようでは片手落ちです。このままではオーケストラの譜面を入力するには不本意ながらPrintMusicを使うしかありません。改善するにはしつこくメーカーに要望し続けるしかないのでしょうか・・

11月14日追記:

Notionでは「環境設定」の「一般」タブにおいて、「MIDI入力を移調」にチェックすると、移調楽器でもキーボードで弾いた通りに入力されることがわかりました。マニュアルにも書いていないのでわかりにくいところです。これで移調楽器におけるステップ入力の問題は解決しました。

以上、PrintMusicとNotionの入力方式には一長一短あって、どちらが良いかは好みの問題ですが、どちらかといえばPrintMusicの方が柔軟性があり、入力効率は高い気がします。また移調楽器を入力するにはPrintMusicが圧倒的に有利です。ただ圧倒的に音が良いのはNotionの方です。これはかなり悩みます。

Notionは試用期限なしで保存以外の機能が全部使えるデモ版がダウンロードできますので、購入する前に一度入力方法を試してみることをおすすめします。

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