昨年の11月頃、たまたまオカリナを買ってみたら面白くて最近マイブームになってるのですが、どうも笛というものは増殖する傾向があるようで、また新しい楽器に手を出してしまいました。オカリナという楽器は非常にハードルが低く、楽器経験がなくても30分もあれば誰でも簡単に吹けます。そして3ヶ月もやればそれなりに吹けるようになってしまいます。もちろん表現を極めれば奥深いものがあるのでしょうけど、このくらいできればまあええかという気分にもなってしまうわけです。
そこで先月からやり始めたのがケーナという楽器です。これはもともと南米ペルーのチチカカ湖に生える葦で作られたのが始まりとされていますが、現在では竹とか木で作られています。輸入ものもありますが、僕が持ってるのは日本の竹で作られているので見た目は何となく和楽器のテイストがあります。同じやるならマイナーな楽器の方が面白いじゃないですか。ケーナを吹ける人なんてそんなにいないだろうし・・
この音はたぶん誰もが聞いたことあると思いますが、大自然を思わせる素朴な響きと哀愁を帯びた儚げな音色が深い郷愁を呼び起こします。とりわけ日本人はこの音を好む傾向があるようです。それは日本にも竹の文化があることと無縁ではないでしょう。実際、構造的にも音色的にも日本の尺八にきわめて近い楽器です。地球の反対側に同じものがあるのは非常に不思議な気がします。自然の竹から生まれる温かく変化に富んだ音色は、シンセでも出すことが大変難しい音色の一つです。それゆえに生で演奏することの意義が大きいのです。
というわけで憧れ続けた楽器なのですが、問題は演奏するのが大変に難しいということです。特に音を出すまでが最大の難関です。リコーダーやオカリナのように誰でも吹けば鳴るというわけにはいきませんし、なかなかきれいな音では鳴ってくれません。CDで聴くような美しい音色を出すにはそれこそ何年もかかるのでしょう。
中身は見ての通り空っぽ、ただの筒です。何でこれで音が出るのか不思議でしょうがありません。当然ながらリコーダーのようにくわえて吹いても絶対に鳴りません。
この切り欠きの部分に息をぶつけることにより音を出します。と言うのは簡単ですが、なかなかに難しいです。安定した音が出るまでには一苦労です。ケーナは表裏合わせてたった7つの穴しかないのですが、何と2オクターブ半もの音域を出すことができます。その秘密は「倍音」にあるのですが、まったく同じ指使いで息を強く吹くことにより1オクターブ高い音が出ます。しかしこれが大変に難しい・・。慣れるまでは音が濁ったり息がスースー混じったりしてきれいな音が出ません。これ実は尺八とまったく同じ構造なんですよね。ですから尺八に大変似た音色が出ます。まあ尺八に比べればはるかに簡単と言われてますが、それでもオカリナの100倍くらい難しかったです。
マイナーな楽器ですので、普通の楽器屋にはあまり置いていません。たまに土産物屋などで1000円くらいで売ってるのもあるようですが、あれはおもちゃですので間違っても買ってはいけません。ケーナは構造が単純なので自分で作ることもできますが、ちゃんとした音程のものを作るのは難しいので、まずは確かな楽器を手に入れることから始めます。南米から輸入されたものも売られてますが、肉厚で径の大きなものは初心者には厳しいとされてますので、日本で作られたものがいいでしょう。こういうものは完全に手作りですので大手メーカーが手がけているわけではなく、個人の工房で作られています。僕が購入したのは、日本で指折りのケーナ奏者である大木岩夫さんという方が製作されたものです。こちらのサイトから通販で購入することができます。
こちらは初心者用に特別に吹きやすく作られたケーナです。加工の精度がすばらしく、まさに職人芸!
一ヶ月練習して、やっと「浜辺の歌」くらいが何とか吹けるようになりましたが、まだ音はスカスカですし、まったく音楽的ではありません。特に2オクターブ目のシ以上の高い音が出せません。息も苦しくて音を長く伸ばせません。しかし音を出すだけでも難しかったのに、一ヶ月でここまで来れるとは思いませんでした。確かに難しいですが、それだけにやりがいがあります。音色が尺八に似ているせいか、日本のメロディーにはよく合います。結構大きな音がしますので、家でやるのは思いっきり近所迷惑ですね。(^^; 下手なバイオリンと同じくらいの騒音です。やっぱり外でやらなきゃだめ? でもあまりに下手すぎると外でやるのも恥ずかしいんだよなぁ・・(汗) まあこれで山で演奏する楽しみがまた増えました。
最後に一言。何か楽器をやりたいという人は結構多いようですが、なぜか自分は「楽譜が読めないから」とか「才能がないから」という理由で初めからあきらめてしまう人が多いんですよね・・。僕にはちょっと理解できません。楽器をやるのに才能って必要なんですか?
そら簡単ではないのは確かですよ。楽器は家電製品なんかと違って買ってきてすぐに使えるというものではありません。ちゃんとした音楽になるためにはそれなりの努力を必要とします。でもそれは「才能」じゃないんです。「技術」というものです。技術ですから訓練すれば誰でも習得できます。楽譜通りに演奏するのは才能ではなく技術です。コンピュータにだってできます。もし「才能」が必要であるとすれば、それは「表現」というもう一つ高い次元での話です。
また楽譜が読める必要もありません。誰でも楽譜がなくても歌は歌えるでしょう。自分の耳で憶えるものです。特に笛は歌の延長ですから、耳で聴けば必ず吹けます。僕も楽譜は使ってないですよ。全部耳コピです。楽譜に書けることはしょせん知れています。大切なのは自分が好きだと思える曲を自分の好きなように演奏することです。
要するに楽器を習得するのは決して容易ではないけれども、それは別に他の何かと違った特別なものではないということです。たとえて言えば、スキーができるようになるのと同じくらい難しい、あるいはバタフライができるようになるのと同じくらい難しいと言えます。でもそれは技術ですから運動神経は関係ありません。訓練すればいつか必ずできるようになるのです。運動音痴と言われる僕にさえできたのですから。
「やってみたけれどできなかった」という人がこれまた多くいます。でもその言い方は正しくありません。正確には「できるまでやらなかったからできなかった」のです。たしかに人によって早い遅いの個人差はあるでしょう。でもあきらめない限り、いつか必ずできるようになるのです。僕もギターを始めた頃は指が痛くて痛くてとても弾けそうな気がしませんでした。でも一週間もすればたどたどしいながらも弾けるようになってました。ケーナだって初めはスースーハーハー言ってるだけで音にもなりませんでした。でもまったくのド素人から始めて一ヶ月でここまで来れたのです。それが何よりの証拠です。
大切なのは「この曲をどうしても演奏したい」、あるいは「憧れのアーティストのようになりたい」という強い気持ちです。その思いが強いほど、どんな努力も厭わなくなります。それどころか、好きでやっていることは努力とは言いません。必要なのは才能ではなく根性です。あきらめない気持ちさえあれば絶対にできます!
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