ダイアトニックコードについて一通り理解したところで、いよいよコード進行について解説していきます。ここではまずクラシックの理論で確立されている最も基本的なコード進行について取り上げます。
終止形
終止形というのはその名の通り、曲が終わるときのコード進行のパターンを指します。多少の例外はありますが、基本的には曲が属するスケールにおける主和音で終わるのが原則です。その主和音へ向かう方法には何パターンかあり、それが終止形と呼ばれるものです。
なぜいきなり終わりから考えるのか疑問に思われるかもしれませんが、実は曲というのは細かく見ると終止形がたくさん集まってできているのです。つまり終止形をつなげていけば曲になるということで、必ずしも曲の終わりだけを意味しているわけではありません。
V7→I型
これはドミナント終止と呼ばれ、あらゆるコード進行の中で最も基本的かつ最も強いものです。この進行がなぜ強いのかを理解するために下の図を見て下さい。なおCとAmのコードは音の順序を入れ替えてありますが(これを転回といいます)、転回してもコードの性質そのものは変わりません。
まずCメジャースケールの場合、これはG7→Cという進行に相当します。G7というコードに含まれる3度音のシと7度音のファは、音程を数えてみると半音6個分であり、これは減5度(または増4度)音程になっています。実際音を鳴らしてみるとわかりますが、これは非常に不安定な感じのする響きですね。すると人間の心理としては、この不安定さから早く逃れたいという気持ちが生まれます。そこでシの音は半音上がってドに行こうとし、ファの音は半音下がってミに行こうとする動きが強く生じます。その結果、不安定な減5度音程が解消されて安定した長3度音程に落ち着くのです。これはいわば緊張から弛緩へという人間の心理に基づいた動きであり、この音の動きをドミナントモーションと呼びます。ここではシの音は主音であるドへ向かうための導音になっていることがポイントです。
一方Aマイナースケールの場合、V7→IはE7→Amという進行に相当します。ここでマイナースケールには3種類あったことをもう一度思い出して下さい。もしナチュラルマイナースケールを使ったとすると、E7というコードの3度音のソ#にはシャープが付かなかったはずです。シャープが付かない場合はE7ではなく、Em7というコードになります。ところがEm7の3度音のソと7度音のレの間は半音7個分、すわなち完全5度音程であり、安定した響きを持っています。そのままではドミナントモーションが生じないため、ソの音を半音上げてソ#とすることにより、わざと減5度音程を作り出しているのです。またこれは主音であるラへ向かうための導音にもなっています。したがってハーモニックマイナースケールでソの音を半音上げたのはこのためだったのです。このようにしてやることにより、メジャースケールの場合と同様にソ#とレの音で作られる不安定な減5度音程が解消して、ラとドの音で作られる安定した短3度音程に向かおうとする動きが強く生じます。
いずれの場合もV7→Iという進行はドミナントモーションに基づいているため、非常にスムーズで強力な流れを生み出します。そのため「強進行」と呼ばれることもあります。この進行は見かけ上5度下行するように見えますが、V7のコードを1オクターブ下げてみると逆に4度上行することになります。つまり5度下行と4度上行はまったく同等であることに注意して下さい。
なおV7の代わりにVのコードを使用してV→Iとすることも可能です。V7とVは基本的に同じ性格を持っているからです。しかし実際音を聴いてみればわかりますが、V→IよりV7→Iの方がより強い感じがするでしょう。これは減5度音程を持っているV7の方がより不安定だからです。そこでV→Iという進行はV7→Iのあからさまな感じを弱めるために使われたりします。
IV→V7→I型
これは前述のV7→I型の前にIVが付くパターンです。ダイアトニックコードの章でIVの和音はサブドミナントと呼ばれ、ドミナントを導く働きをすると言いましたが、これはまさにそうなっているわけです。
Cメジャースケールの場合、これはF→G7→Cという進行に相当します。Fの構成音はファ・ラ・ド、G7の構成音はソ・シ・レ・ファですから、Fの構成音が全音ずつ平行移動することにより滑らかにG7につながるようになっているわけですね。これは言い換えればIV→V7と2度上行するパターンにもなっています。
IV→I型
これはIV→V7→I型の変形とも言えますが、ドミナントを飛ばしてサブドミナントからいきなりトニックに帰結するパターンです。これをサブドミナント終止と呼びます。実際音を聴いてみると、これも非常に自然につながっていることがわかります。しかも何となく清々しいような感じがしませんか? 実は賛美歌の最後で「ア~メン」と神を讃える部分がこの進行になっているのです。そのためこの進行を「アーメン終止」と呼ぶこともあります。
クラシックにおけるダイアトニックコードの結合法則
前項で終止形には3つのパターンが存在すると説明しましたが、これはI・IV・V7の主要三和音だけを使った場合でした。しかし実際には7種類のダイアトニックコードが存在するわけですから、相互間の進行も考えていかなければ十分とは言えません。ここではまずクラシックの理論で確立されている基本的な法則について説明します。クラシックというのはポピュラー音楽に比べるとより厳格で、それだけ制約の多いものになります。その代わり、ここで説明するルールさえ守れば「安心して聴いていられる」コード進行が簡単に得られるのです。非常にシンプルな原理だけで成り立っているので、覚えておいて損はありません。
なおダイアトニックコードのうち、III度とVII度のコードは少し特殊ですので、ここでは除外して考えて下さい。
Iからはどこへでも進める
曲の始まりというのは別にどのダイアトニックコードから出発しても構わないのですが、Iのコードから始まる曲が圧倒的に多いと思います。これはたぶん歌いやすさを考慮してのことでしょう。Iから出発した場合、次に来るコードは何でも構いません(もちろんIIIとVIIは除きます)。すなわち可能性としてはI・II・IV・V・VIのすべてが当てはまるわけです。終止形は必ずしも曲の終わりだけではないと言いましたが、曲の途中でいったんIに戻ってきても、その次は自由に飛んでよいというわけです。
4度上行(または5度下行)
V7→Iのドミナント終止がこれに該当しますが、それをさらに他のダイアトニックコードにも転用することができます。たとえばIIm→V7や、VIm→IImといった進行も可能になります。このルートが4度上行するパターンは強進行と呼ばれる動的な進行を生み出し、曲を流れるように進めていく原動力になります。
3度下行
これはルートが3度下行するパターンです。たとえばI→VImがこれに該当します。一見すると6度上行するように見えますが、VImを1オクターブ下げてやれば3度下行になることがおわかりですね。Cメジャースケールの場合はC→Amという進行になりますが、構成音で言えばド・ミ・ソからラ・ド・ミに移るわけで、ドとミの音が共通しています。3度下行はこのような音の共通性を利用してスムーズに移行できる特性を持っています。他にもIV→IImやVIm→IVといった進行が可能です。なお逆に3度上行するパターンはクラシックでは認められていません。実際音を聴いてみると、C→AmはOKでもAm→Cは何となくしっくり来ないのがおわかりかと思います。
2度上行
これはIV→V7→IにおけるIV→V7の部分を他のダイアトニックコードに転用したものと考えられます。たとえばV7→VImという進行がこれに該当します。Cメジャースケールの場合はG7→Amとなり、構成音のソ・シ・レ・ファがラ・ド・ミへと平行移動することによってスムーズな進行感を生み出しているわけです。他にI→IImも可能ですが、これはIからの進行ですからもともと可能だったわけですね。なお逆に2度下行するパターンはクラシックでは許されていません。
4度下行(IV→Iのみ)
これは少し特殊で条件が付きます。ルートが4度下行するパターンはIV→Iという進行以外、他のダイアトニックコードには転用できないということです。つまりサブドミナント終止そのもの以外は許されないということですね。
コード進行を作ってみる
以上でクラシックにおけるダイアトニックコードの結合法則について説明しましたが、たった5つの原則だけでできているので覚えるのも簡単だと思います。制約はかなりありますが、これだけでも主要三和音に比べればずっとバリエーションは広がったはずです。それではこの法則を利用して具体的にコード進行を組み立ててみましょう。
I→VIm→IV→V7→I→IIm7→V7→I
これは順に3度下行、3度下行、2度上行、4度上行、2度上行、4度上行、4度上行のパターンになっています。Cメジャースケールに当てはめてみると次のようになります。実際に音を出して自分の耳で確かめて下さい。
C→Am→F→G7→C→Dm7→G7→C
Im→IVm→V7→Im→♭VI→IIm7(♭5)→V7→Im
これは順に4度上行、2度上行、4度上行、3度下行、4度上行、4度上行、4度上行のパターンになっています。Aマイナースケールに当てはめてみると次のようになります。実際に音を出して自分の耳で確かめて下さい。
Am→Dm→E7→Am→F→Bm7(♭5)→E7→Am
たったこれだけの法則を覚えただけで8小節くらいのコード進行はいくらでも作れることがおわかりでしょう。あとは自分でいろいろ考えながら作ってみて下さい。
コメント