初めてケーナを手にしたら、誰しも早く曲を吹いてみたいとウズウズしていることでしょう。しかしケーナはオカリナと違ってちょっとやそっとで吹ける楽器ではありません。あまりの道の長さにケーナを吹くことをあきらめてしまうかもしれません。そうならないように自分の経験も交えながら、吹けるようになるまでの練習方法について解説してみたいと思います。
ケーナの持ち方
左手の親指で裏側の穴を押さえるのは共通ですが、残りの指の使い方には二通りの方法があります。一般的には上の写真に示すように、左手の人差し指から薬指までで上3つの穴を押さえ、右手の人差し指から薬指までで下3つの穴を押さえます。右手と左手を均等に使いますので、普通はこの方がわかりやすいでしょう。
一方、南米の名手たちは左手の人差し指と中指で上2つの穴を押さえ、右手の人差し指から小指までを使って下4つの穴を押さえていると言われています。そうする理由は、動きにくい薬指をなるべく使わないことで演奏性を高めるためらしいです。その代わり、一番下の穴は小指で押さえなければならなくなりますが、通常フォルクローレでは一番低いソの音は使わないことが多いので、それで問題はないということです。
別にどちらでも構わないのですが、一度固まってしまうと後から変えることは難しいので、最初にどっちで行くか決めておくべきです。まあ特別な理由がなければ、右手3本、左手3本ずつ使う方法で問題はないと思います。
音を出してみる
では最初の難関である音出しにチャレンジしてみましょう。まずケーナの構え方ですが、管の下端を下顎に軽く当てるようにし、上端が下唇に軽く触れる程度に近づけます。跡形が付くほど強く押さえてはいけません。このとき唄口の部分が上唇と下唇のちょうど間、つまり息を吹き出す隙間に来るように調節します。唇は軽く横に引いてごく薄く開きます。唇の両端は閉じていて、真ん中だけが0.5ミリから1ミリくらい開いているようなイメージです。無理に力を入れてはいけません。軽く微笑む程度がベストです。間違っても口を尖らせてはいけません。
ケーナの角度は人によって好き好きがありますが、自ずと音が出やすい角度がわかってくると思いますので、慣れたら自然に構えられるようになります。あと指はどうするかです。穴を一つも押さえない場合は高い方の「ソ」の音になりますが、この音は少し出しにくいので、最初は裏側の穴を親指で押さえ、一番上の穴を人差し指で押さえた「ミ」の音か、上から3つの穴を押さえた「ド」の音が一番音を出しやすいと思います。
その状態でまず静かに息を吹き込んでみましょう。楽器経験が何もない場合、まず音は出ないでしょう。いきなり音が出たら「まぐれ」です(笑)。でも出なくて当たり前ですから焦ることはありません。まず息の強さを確認しましょう。ケーナは力任せに強く吹いても絶対音は出ません。むしろそっと優しく吹いた方が音は出やすくなります。そして一番大事なのは息を出す方向と広がり具合です。ケーナは唄口で風が二つに分かれることによって音が出ますので、唄口めがけてまっすぐに息を当てなければ音は出ません。そして息が大きく広がってしまってもダメです。できるだけ息を細く絞り、すべての息が唄口だけに直撃するようなイメージで吹きます。息が周りに散らばっていると、それは音になりませんからスースーとノイズが混じるだけです。唄口で風が真っ二つに切り裂かれることをイメージしましょう。楽器を持たずに指先に息を当ててみると、息が散らばっていないか確認できます。できるだけ一点に集められるように練習しましょう。このとき決して口を尖らせてはいけません。あくまでも唇は横に引いたままです。
最初はこうやって息の強さを変えたり、息を出す方向やケーナを持つ角度、唇の開き具合、唇から唄口までの距離を変えてみたりして試行錯誤を繰り返します。よく言われるのですが、ビール瓶の口を横から吹くとボーッという音が出ますよね? あれと原理は同じなのです。ですから手元にビール瓶があればそちらで練習した方が早いかもしれません(笑)。そうやっているうちにいつか音らしきものは出るはずです。僕は最初に音が出るまでに1時間ほどかかりました。とにかく何らかの音が出ればしめたものです。
苦労してやっと音が出たとしても、最初はすぐ消えてしまったり、二度と出せなかったりするでしょう。でも最初は誰でもそうなのです。これはもう慣れるしかないので、練習を繰り返しているうちに自然と音は出るようになってきます。
音階練習
やっと音が出るようになったら、次にやることは音階練習です。一番低い「ソ」の音から1オクターブ上の「ソ」の音まで順番に吹いていきましょう。運指については後で解説しますが、基本的には下から一つずつ開けていくだけです。一番下の穴を開けたら「ラ」、下2つ開けたら「シ」・・という具合です。全部開けたら1オクターブ上の「ソ」になります。このとき注意することは、音の高さによって息の強さを変えなければならないということです。これはしばらくやってみると自然に習得できますが、低い音ほど弱く、高い音ほど強く吹きます。低い音は強く吹きすぎると音が裏返ってしまいますし、高い音はある程度強く吹かないと音が出ません。これも慣れです。
ケーナ運指表もご覧下さい。
2オクターブ目に挑戦
とりあえず1オクターブ目の音が出るようになれば、簡単な曲であれば吹けるようになります。たとえば「ちょうちょう」や「きらきら星」などは1オクターブで吹くことができます。でも本格的に演奏しようと思ったら、どうしても1オクターブの壁を乗り越えなければなりません。しかしここが最大の難関なのです。おそらく音を出すこと以上に難しいと思います。僕もこれを乗り越えるのに2~3ヶ月かかりました。ケーナをあきらめるかどうかの分かれ道はここにあります。
ケーナは1オクターブ目とまったく同じ運指で2オクターブ目の音も出すことができます。これは2倍音と呼んでいるのですが、息を強く吹くことによって1オクターブ高い音が出るのです。ですから基本的には1オクターブ目より強く吹けばよいのですが、実際には強く吹くのではなく、より息を細く絞ることが必要になります。息を細くすることによって、実質的に風の速さが2倍になり、強く吹くのと同じ効果になるからです。力任せに強く吹いて高い音が出たとしても、それではすぐ息切れしてしまいますから音楽にはなりません。ですから限りなく息を細く絞ること、それ以外に方法はありません。
こうやって文章で説明するのは簡単ですが、実際にやってみるとそう簡単にはできません。最初のうちはどうしても力任せに強く吹いてしまうでしょう。そればかりやっているとフラフラになってしまいます(笑)。また低い方のラ・シあたりまでは何とか出せたとしても、高いミより上はそう簡単には出ません。やはり高い音になるほどより強い息が必要で、さらに息を細く絞る必要があるからです。これはもう慣れとしか言いようのないもので、長い間同じことを繰り返しているうちにいつの間にかできるようになっていたというのが正しいと思います。できないからと言って悲観することはなく、あきらめなければいつかは出せるようになります。
ロングトーン
ケーナに限らず、どんな管楽器でも必ずする基礎練習がロングトーンです。単に音を長く引き伸ばすだけなのですが、安定した音を長く保つのは意外と難しいものです。最初のうちはどうしても音が割れてしまったり、かすれたり、消えたりしてしまうことが多いでしょう。ですから安定した音を出すためには避けて通れない練習です。とりあえず今出るところの音まででいいですから、一番低いソの音から順に最低10秒以上持続しながら一つずつ上げていき、一番上まで行ったら今度は逆に下げていくという練習をします。最初はそれだけでも結構しんどいと思いますが、ある程度上達すれば伸ばす時間を20~30秒程度まで延長し、その間に音の大きさを変えてみたり、ビブラートをかけてみたり、さまざまな変化を付ける練習ができます。これはどんなに上達したとしても必ずやって損はない練習です。
曲を演奏する
基礎練習ばっかりではつまらない。誰しも早く曲を吹いてみたいと思っていることでしょう。2オクターブ目(正確には3オクターブ目のソまで)の音が満足に出せるようになれば、もうほとんどの曲は自由自在に吹けるようになっています。フォルクローレの曲でもごく一部を除いて、ここまで出せれば十分です。たとえば憧れの「コンドルは飛んで行く」は最高音が3オクターブ目のソなので、それで十分吹けるわけです。
でも初めにも言いましたように、いきなりそこへ行くよりは、まず誰でも知っているような童謡・唱歌を完全に吹けるように練習することが早道です。これらはたいてい1オクターブ少々の音域で吹けますので、まだ2オクターブ目が十分に出せない段階からでも練習することが可能です。日本人なら誰でも知っている曲ですから、情感を込めて吹くことができるでしょう。人に聴いてもらえばさらにやる気が出るかもしれません。自己満足でも構いませんから、そうやって演奏する楽しさをまず味わってほしいのです。それが新たなモチベーションとなり、さらに次の目標が見えてくるはずです。
童謡・唱歌を中心に自由に移調できる楽譜を用意していますので、ご利用下さい。ケーナの場合、キーはGかC、あるいはDにすると吹きやすくなります。
楽譜は読めないといけないのか?
よく楽器をはじめたいのだけれど、楽譜が読めないからと言って尻込みする方を見かけます。一応、学校の音楽で楽譜の読み方くらいは習っているはずなのですが、大人になるとすっかり忘れているのですね。もちろん楽譜は読めるに越したことはないですが、読めないとケーナが吹けないかというと決してそんなことはありません。誰だって楽譜が読めなくても歌は歌えるでしょう? ケーナも歌と同じなのです。音階が吹けるようになれば、CDなどを聴いてメロディーをなぞっていくだけで自然と吹けるようになります。むしろ楽譜に頼らず自分の耳で確かめた方が早く上達します。だから楽譜が読めないからと言ってあきらめる必要はまったくありません。
コメント
非常にご丁寧な、かつ、具体的なご説明有難うございました。
最初の基本から挑戦したく思います。
>まこ様
高音はちょっと難しいですが、2~3時間粘れば音は出ると思いますよ。
すべてはそこからです。頑張ってください。
はじめまして。
以前から憧れていましたが
こちらを拝見させていただいて、ついに購入して始めようと決意しました❗️
オススメのケーナを教えていただけますか?
体育会系の57歳女です。体力には自信がありますが、肺活量は普通だと思います。
参考までに、身長160センチで手は大きいです。
手のひらから中指の先までが18センチ、手を目一杯開いて親指から小指の先までが21センチ、中指の長さが8センチです。
目標は、勤務先の飲食店でいつかお客様に聞かせたいのです。半年後には1曲くらいマスターしたいです☺️
>がんこ様
遅くなりまして申し訳ありません。
おすすめのケーナと言いましても、どこのメーカーが良いということは申し上げられません。
ただ初心者ならば木製より竹製、管の厚みができるだけ薄いものの方が吹きやすいです。ある程度自信がついたら本格的なものに買い替えるのが良いと思います。
始めまして
ケーナ初心者です。
発音しなければ意味がないので、
まず、解放のGを鳴らして居ます。
解放のGを吹いて、録音して観ると
音に重なって
擦過音というか?風切り音というか?
「サー」と言うか「ザー」(に近い)音が
音に重なって録音されます。
解放のGから初めて下行して
最低音のGまで、また上行してGまでを
今は練習しています
私のケーナの発声時(発音)では
音が大きいので、吹いている私の耳にはこの
「サー」音は感じないのですが、
録音では、音に重なるこの「サー」音が大きく
とても雑音で、何とかしたいのです。
YouTubeで、いろいろ聴いて見ると
この音が有るヒトも、殆ど無いか、全く無い
奏者もいます。(録音を加工していなければ)
もしかしたら、手元の楽器の個性かも知れません
手元のケーナは国内の工房が作った
木製のケーナです。
良く鳴っている時は
音孔の指に振動を感じるので、管が鳴っていると思います。
息の筋が歌口=U字部に当たっていないと
ケーナは発音しないので
初心者、開始三日目でも、大きな音が出ているという事は、
一応唄口=U字部に息の筋は
当たっていると思います。
ケーナの構えの位置、アパチュアの先から唄口までの
距離、息の方向、息の速さ等、これらがケーナが鳴る条件に合致しないと
ケーナは鳴らない。
解放のGは、煩いくらいの大きな音が出ます。
最低音のGは、初心者には
息の調整が難しく安定して太くは鳴らせないので難儀しています。:)
リコーダーでも、最低音の~
例えばF管リコーダーなら~F(やA)=ここは、難しいのですが、
経験的に練習で出せる様に成ることは知っています。
ただ、リコーダーでは、この様な「サー」音(=ノイズ)
は、まず出ません。
唄口の構造の違いでしょう
ケーナの唄口=U字の幅(手元のケーナはエンド(唇側)で11mm)
より 私は、幅広い息の筋で
オーバー・ブローになっているのかもしれません。
それで無駄な息が、風切り音となり「サー」音として発音の音に
重なって聞こえるのかも知れません。
息の筋を絞って、できるだけ細くと意識しながら
軽く吹いたり試していますが
「サー」音を消せません。
簡単には息の筋を細く鋭く作れていません
とにかく、「細く鋭く」を心がけて、たくさん吹くしか
ないのでしょうが・・・・
ヒントを頂けると嬉しいです。
どんな人でも多かれ少なかれ擦過音は出ます。それがケーナの味でもありますので。
楽器によっても多少違いはあります。管厚が厚いと出やすいように思います。
一番大事なのは息が細く絞れていることです。息が広がっていると擦過音ばかり出やすくなります。
2オクターブ目は相当息が絞れてないと出ないので、まず2オクターブ目を練習する方が先です。
2オクターブ目が出せれば自然と擦過音は小さくなります。